飲食店の損益分岐点はどう計算する?黒字化までの考え方
飲食店の損益分岐点の計算方法は?黒字化に必要な売上の求め方
【この記事のポイント】
損益分岐点は「固定費÷粗利率」で出ます。粗利率は「1−原価率」。原価率30%なら粗利率は70%。固定費が月120万円なら、必要売上は約171万円。ここを超えた分が利益です。計算はこれだけ。まず自店の数字を当てはめてください。
多くの店が「なんとなく忙しいのに、お金が残らない」と感じます。理由は単純で、月にいくら売れば赤字を抜けるのかを数字で持っていないから。感覚ではなく金額で線を引くと、値付けもシフトも判断が速くなります。損益分岐点は、その線そのものです。
この記事では、損益分岐点の計算式、必要な客数と1日あたりの売上への落とし込み、そして黒字化までの考え方を、現場のケースを交えて具体的に整理します。電卓ひとつあれば、読み終わる頃には自店の「黒字ライン」が言えるようになります。
今日のおさらい:要点3つ
- 損益分岐点売上=固定費÷粗利率(粗利率=1−原価率)。この式だけ覚えれば十分。
- 固定費と変動費を分けることが計算の前提。家賃・人件費は固定、食材費は変動が基本。
- 黒字化は「売上を増やす」だけでなく「固定費を下げる」でも近づく。分母と分子の両方を動かす。
この記事の結論
一言で言うと、損益分岐点は「これ以上売れば黒字」という金額の目印です。最も重要なのは、固定費と粗利率という2つの数字を正しく掴むこと。この2つさえ正確なら、必要売上も必要客数も自動的に出ます。難しい会計知識は要りません。
「忙しいのに残らない」の正体は、計算していないこと
閉店後、電卓を叩いては途中でやめてしまう
営業が終わって、レジを締める。今日は席が埋まっていたはずなのに、通帳を見ると思ったほど増えていない。ノートに家賃と人件費を書き出し、電卓を手に取るものの、「変動費ってどこまで入れるんだっけ」で手が止まる。結局そのページは白いまま、明日の仕込みへ気持ちが移っていく。
正直なところ、これは能力の問題ではありません。飲食の現場は分単位で動いていて、腰を据えて数字を並べる時間そのものが取りにくい。だからこそ、一度「型」を作ってしまえば毎月5分で済むようになります。まずは費用を2つの箱に分けるところから始めます。
固定費と変動費、まずここを分ける
固定費は、売上がゼロでもかかる費用です。家賃、社員の給与、リース料、水道光熱の基本料金、通信費などがここに入ります。変動費は、売れた分だけ増える費用。食材費(原価)が代表格で、アルバイトの時給も繁閑で動くなら変動寄りに置くと実態に近づきます。
厳密に分けようとすると人件費で悩みますが、最初はざっくりで構いません。よくあるのが、細かく分けすぎて計算そのものが止まるパターン。まずは「家賃と社員給与=固定」「食材費=変動」と割り切り、あとから精度を上げれば十分です。
実体験:月商280万でも赤字だった居酒屋の話
知人が営む15坪の居酒屋は、月商280万円ありながら毎月わずかに赤字でした。固定費は家賃28万、社員2名の給与に自身の役員報酬を含めて約110万、その他固定で約20万、合計158万円。原価率は34%と高め、つまり粗利率は66%です。
損益分岐点を計算すると、158万円÷0.66=約239万円。ここまでは黒字ラインを超えています。問題は変動人件費でした。忙しさに合わせてアルバイトを厚く入れ、実質の変動費が膨らんで、粗利率が体感52%まで落ちていた。158万円÷0.52=約304万円。月商280万では届いていなかったわけです。原価率だけ見て安心していたのが盲点でした。ピーク以外の1名を削り、原価を32%に戻したところ、翌々月から黒字に転じました。
損益分岐点の計算と、客数への落とし込み
基本式:固定費÷粗利率で必要売上が出る
もう一度、式を確認します。損益分岐点売上=固定費÷粗利率。粗利率は1から原価率を引いた数字です。原価率30%なら粗利率0.7、原価率35%なら粗利率0.65。固定費が月120万円で原価率30%の店なら、120万÷0.7=約171万円。これが「赤字を抜ける売上」です。
ここで大事なのは、原価率が上がると必要売上も跳ね上がるという点。同じ固定費120万でも、原価率が35%になると120万÷0.65=約185万円。5%の原価上昇が、月14万円分の売上ノルマ増に化けます。原価管理が黒字化に直結する理由が、この式に表れています。
必要客数と1日あたりの売上に変換する
金額だけでは現場が動きにくいので、客数に直します。必要売上171万円、客単価3,000円の店なら、171万÷3,000=月570人。月25日営業なら1日あたり約23人。ランチとディナーがあるなら、昼10人・夜13人といった配分に落ちます。ここまで来ると「今日はあと何人」が見える。
実は、この「1日23人」という数字を朝礼で共有するだけで、スタッフの動きが変わります。数字を持たない店は「頑張ろう」で終わりますが、目標客数がある店は「あと3組」で声かけやおすすめの一言が出る。損益分岐点は、経営者の帳簿だけでなく、現場の合言葉にもなります。
実体験と現場の声:数字を貼り出したカフェ
あるカフェでは、固定費90万・粗利率68%から損益分岐点を約132万、客単価1,100円で月1,200人、1日48人と割り出しました。厨房に「今日の黒字ライン:48人」と紙を貼っただけ。店長とこんな会話がありました。
店長「正直、今まで売上の”多い少ない”を気分で言ってたんです」
私「48という線があると、40人の日でも慌てずに済みますよね」
店長「そうなんです。逆に50人超えた日は素直に喜べる。基準ができました」
中小企業庁の調査でも、飲食業は開業後の廃業率が他業種より高い水準とされます。ケースによりますが、その多くは「数字を見る前に力尽きる」もの。逆に言えば、線を一本引くだけで踏みとどまれる店は少なくありません。
よくある失敗と、その防ぎ方
失敗1:役員報酬・自分の給料を固定費に入れ忘れる
個人店で特に多いのが、経営者自身の生活費を計算に入れないケース。損益分岐点は「店が赤字を抜ける点」であって、「あなたが暮らせる点」ではありません。自分の取り分を固定費に含めて計算しないと、黒字なのに生活が回らない、という現実にぶつかります。まず自分の給料を固定費に置いてください。
失敗2:粗利率を「メニュー表の原価」で計算する
レシピ上の原価率と、実際の原価率はズレます。廃棄、まかない、こぼし、サービス品。これらを入れた「実効原価率」で計算しないと、必要売上を低く見積もってしまう。棚卸しから逆算した実際の原価率を使うのが鉄則です。多くの店で、実効原価率はメニュー表より3〜5%高く出ます。
失敗3:分母(粗利率)を上げる発想を忘れる
黒字化と聞くと「売上を増やす」に意識が向きがちですが、式の分母である粗利率を上げても損益分岐点は下がります。原価率を2%改善する、ドリンクなど高粗利商品の比率を上げる、といった打ち手です。売上を追うより、粗利率1%の改善のほうが即効性がある場面は多い。ここは他社比較でも差が出るポイントです。
こういう店は、今すぐ損益分岐点を出すべき
「忙しいのに残らない」「値上げすべきか迷っている」「アルバイトを何人まで入れていいか分からない」。ひとつでも当てはまるなら、今夜のうちに固定費と原価率をノートに書き、式に当てはめてみてください。作業は10分ほど。黒字ラインという一本の線が、明日からの判断を驚くほど軽くします。
数字が苦手でも大丈夫。完璧な会計より、ざっくりでも「自店の必要売上を言える」ことが先です。そこから精度を上げれば十分間に合います。迷っているうちに一日が過ぎるより、今日、線を一本引くことをおすすめします。
よくある質問
Q1. 損益分岐点の計算式をもう一度教えてください
A1. 損益分岐点売上=固定費÷粗利率、です。粗利率は1−原価率で求めます。固定費120万・原価率30%なら、120万÷0.7=約171万円が答えです。
Q2. アルバイトの人件費は固定費と変動費どちらですか
A2. 繁閑でシフトを増減させているなら変動費寄りです。売上に連動して動く費用は変動費に置くと、計算が実態に近づきます。社員給与は固定費です。
Q3. 原価率が分からない場合はどうすればいいですか
A3. 月の食材仕入額÷その月の売上で概算できます。飲食店の原価率は30%前後が一つの目安。まずはこの実測値で計算を始めてください。
Q4. 損益分岐点を超えたら、その分が全部利益ですか
A4. ほぼその通りで、超過分に粗利率を掛けた額が利益です。売上が10万円上回れば、粗利率70%なら約7万円が利益として残る計算になります。
Q5. 客単価が分からなくても計算できますか
A5. 必要売上までは客単価なしで出せます。客数に落とすときだけ客単価が必要です。過去1か月の売上÷客数で平均客単価を出せば十分使えます。
Q6. 黒字化を早めるには売上と固定費どちらを動かすべき
A6. 即効性なら固定費や原価率の見直しが先です。売上を1割増やすより、固定費を1割下げるほうが確実で早い場面が多い。両方を同時に検討するのが理想です。
Q7. 開業前でも損益分岐点は計算できますか
A7. できます。むしろ開業前こそ必須です。想定家賃・人件費・原価率から必要売上を出し、その席数と客単価で現実的に達成可能かを確認してください。事業計画の要になります。
Q8. 変動費に光熱費は入れますか
A8. 基本料金は固定、使用量に応じた分は変動と分けるのが正確です。ただ最初は光熱費全体を固定に入れても大きくは狂いません。精度は後から上げれば十分です。
まとめ
損益分岐点は「固定費÷粗利率」で出る、たった一つの式です。まず費用を固定と変動に分け、実効原価率から粗利率を求め、固定費を割る。出てきた必要売上を客数や1日あたりに落とせば、現場で使える目標になります。自分の給料を固定費に含めること、メニュー表ではなく実測の原価率を使うこと、この2点を外さなければ数字はブレません。
黒字化は、売上を増やすだけでなく、固定費や原価率を下げても近づきます。分子と分母の両方を動かせるようになれば、打ち手の幅は一気に広がる。今夜、電卓を10分だけ手に取り、自店の黒字ラインを一本引いてみてください。その一本が、明日からの経営判断を確かなものにします。
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