飲食店の販促はどう設計する?クーポンとスタンプカード
飲食店の販促の設計|クーポン・スタンプカードで損しない作り方
【この記事のポイント】
販促で損する店は、割引の「金額」だけを見て「戻り」を見ていない。クーポンは新規、スタンプカードは常連化。役割が違う。値引き分は原価ではなく利益から出る。3割引は原価率30%の店なら利益の大半を削る。まず決めるのは「誰に、何回来てもらうか」。この順番を守れば、販促は費用ではなく投資になる。
大事なのは、配って終わりにしないこと。1枚のクーポンで来た客が2回目に来なければ、その販促は赤字のまま終わります。逆に、初回の割引をきっかけに3回通ってくれれば、値引き分はすぐに回収できる。数字で言えば、飲食店の再来店率は業種にもよりますが初回客の2〜3割前後にとどまることが多く、ここを設計で押し上げるのが販促の本質です。
この記事では、クーポンとスタンプカードを「損しない形」で組み立てる考え方を、名古屋で17店舗を運営してきた現場の実感を交えてお伝えします。テンプレートのマネではなく、あなたの店の原価と客層に合わせて自分で判断できる状態を目指します。
今日のおさらい:要点3つ
- クーポンは新規獲得、スタンプカードは常連化。目的を混ぜると効果が薄まる
- 値引きは利益から出る。原価率30%の店の1割引は、利益ベースでは約14%の目減りになる
- 効果は「配布数」でなく「再来店数」で測る。回収の見込みが立たない販促はやらない
この記事の結論
一言で言うと、販促は「割引の設計」ではなく「再来店の設計」です。最も重要なのは、そのクーポンやスタンプカードが「次の一回」をどう生むかを、配る前に決めておくこと。割引率を先に決める店は、たいてい損をします。順番が逆です。
「とりあえずクーポン」が利益を静かに削る理由
売上が落ちた月、つい割引券を刷ってしまう
客足が鈍った月末、レジ締めの数字を見ながら「来月は何か打たないと」と考える。そのままスマホでチラシ作成アプリを開き、「全品10%オフ」の券を刷る手配をしてしまう。深夜、他店のクーポンを検索しては「うちも同じくらい引かないと弱いか」と眉をひそめる。翌朝には印刷会社への発注を済ませ、少しほっとする。よくあるのが、この「打った安心感」で思考が止まってしまうパターンです。
正直なところ、割引券を配ること自体は難しくありません。難しいのは、その1枚がいくらの利益を削り、いくらの利益を連れてくるかを事前に読むこと。ここを飛ばすと、販促は「やった気になる出費」に変わります。
割引は「売上」ではなく「利益」から引かれる
ここが最初のつまずきどころです。客単価3,000円の店で10%引くと、300円の値引き。売上から見れば1割ですが、この300円は原価を差し引いた後の利益から出ていきます。仮に原価率が30%なら、3,000円の料理の粗利は2,100円。そこから300円を引くので、粗利は約14%減る計算です。売上10%オフのつもりが、利益では1.4倍近い打撃になっている。
さらに厄介なのは、割引に反応する客の一定数が「もともと来るはずだった常連」であること。新規を呼ぶための割引で、既存客の単価まで下げてしまう。これを「カニバリ(共食い)」と呼びます。中小企業庁の小規模事業者向けの資料でも、販促費は費用対効果を測って使うべきものとして繰り返し触れられていますが、現場ではこの測定が最も抜けやすい。
実体験①:全品10%オフをやめて「初回限定・2品目半額」に変えた店
当社が運営に関わった居酒屋業態で、以前は「全品10%オフ券」を月2,000枚ほど配布していました。回収率は約8%、160枚が使われて一見それなりの反応。ですが中身を見ると、使った客の6割以上が既存の常連。新規はほとんど増えず、常連の単価だけが下がっていました。月の値引き総額はおよそ7〜8万円、そのほとんどが「本来満額で払ってくれた人」への値引きです。
そこで券を「初回来店限定・2品目のみ半額」に切り替えました。1品目は満額なので、必ず一定の単価を確保できる。半額対象を1品に絞ることで値引き総額も読める。結果、既存客への流出が止まり、新規の再来店率は3か月で約2割から3割強へ。値引き総額は月4万円台に下がったのに、翌月以降の来店数は前年同月比で1割ほど伸びました。ケースによりますが、「誰に効かせるか」を絞るだけで、同じ販促費でも戻りが変わります。
クーポンとスタンプカード、役割を分けて設計する
クーポンは「入口」、スタンプカードは「回数」
この2つは似ているようで役割がまったく違います。クーポンは、まだ来たことのない人の「行ってみようかな」の背中を押す入口の道具。一方スタンプカードは、一度来た人を「あと数回」通わせるための回数の道具です。実は、この役割を混ぜて「常連にもクーポンを配る」ことで効果を薄めている店がとても多い。
入口はクーポンで広く、回数はスタンプで深く。この分業を意識するだけで、値引きの重複がなくなります。新規には割引、常連には割引ではなく「特別扱い」で応える。原価をかけずに満足度を上げる余地は、割引以外にいくらでもあります。
スタンプカードは「ゴールまでの距離」で設計する
スタンプカードで失敗するのは、たいていゴールが遠すぎるケースです。「10回でドリンク1杯無料」だと、多くの客は3〜4回で財布から消えます。人はゴールが見えないと走れません。おすすめは、最初の1〜2個をあらかじめ押しておく「先行スタンプ」。心理的に「もう始まっている」状態を作ると、達成率が上がることが行動経済学の研究でも知られています。
特典の中身も、原価の低いもので設計するのが鉄則。ドリンク1杯やデザート1品なら原価は数十円〜百数十円程度。5回来店で1杯無料なら、5回分の利益に対して特典原価はごくわずかです。逆に「1,000円割引」のような現金値引き型は、利益をそのまま削るので避けたい。
実体験②と現場の声:スタンプの「満了」を再スタートに変えた
あるカフェ業態で、スタンプカードが満了した客がそこで離れてしまう問題がありました。ゴールに着いたら終わり、では次が続かない。そこでスタッフと話し合い、満了カードを持ってきた客に、次のカードへ最初の2個を押した状態で渡す運用にしました。現場ではこんな会話が生まれています。
スタッフ「満了おめでとうございます。次のカード、もう2個押しておきますね」
お客さま「え、いいの?じゃあまた来ないと損だね」
スタッフ「はい、次は6回でパンケーキ1つサービスです」
この一手間で、満了客のうち約7割が新しいカードで来店を継続。カード満了→離脱だった流れが、満了→再スタートに変わりました。原価は先行スタンプ2個分の価値、つまりほぼゼロ。効くのは金額ではなく「もう始まっている」という感覚です。
よくある失敗と、その防ぎ方
失敗①:割引率を先に決めてしまう
「20%オフくらいが目立つだろう」と率から入るのが最も多い失敗です。決めるべきは率ではなく、「1回の販促でいくらまで値引きしてよいか」の総額と、「何人の再来店で回収するか」の見込み。順番を逆にすると、必ず引きすぎます。まず回収シナリオ、次に率。この順を守るだけで無駄打ちが減ります。
失敗②:効果を「配った枚数」で満足する
「2,000枚配った」は成果ではなく作業量です。見るべきは、その券で来た人が何人で、そのうち何人が2回目に来たか。クーポンに小さな通し番号や「初回」の一言を入れておくだけで、レジで数えられます。判断基準はシンプルで、「回収の目処が数字で言えない販促はやらない」。ここを他店と比べても、測っていない店ほど販促費が膨らんでいます。
失敗③:常連にまで割引を配ってしまう
週3回来てくれる常連に10%オフを渡すのは、利益を自分から捨てているようなもの。常連が求めているのは値引きより「覚えていてくれること」です。名前を呼ぶ、いつもの席を空けておく、新メニューを先に出す。こうした原価ゼロの特別扱いのほうが、長い目で見れば割引より強く効きます。割引は新規、記憶は常連。ここを混ぜないことが、損しない販促の分かれ道です。
こういう店は、今すぐ販促を「設計図」から見直すべき
もし今、クーポンの回収率も再来店率も数字で言えないなら、いったん配布を止めて構いません。止めても、多くの場合すぐには売上は落ちません。むしろ、これまで満額で払ってくれていた常連への値引きが消えるぶん、利益はいったん改善することさえあります。
その上で、「誰に・何回来てほしいか」を紙1枚に書き出してみてください。新規なら初回限定クーポン、常連ならスタンプと特別扱い。役割を分けて、値引き総額の上限と回収人数の目安を先に決める。難しく考えなくて大丈夫です。まず1業態、1種類の販促から測り始める。それだけで、来月の一手の精度が変わります。
よくある質問
Q1. クーポンの割引率はどれくらいが適正ですか?
A1. 率よりも「1回の値引き総額」と「回収人数」を先に決めるのが正解です。目安として、原価率30%前後の店なら現金値引きは初回限定で10〜15%程度に抑え、常連には配らないこと。率だけを上げても利益から削られるため、深追いは禁物です。
Q2. スタンプカードは何回でゴールにすべきですか?
A2. 5〜6回が現実的なラインです。10回はほとんどの客が途中で離脱します。最初の1〜2個を先行して押しておくと、達成率が上がります。ゴールは「見える距離」に置くのが原則です。
Q3. スタンプの特典は何にすればいいですか?
A3. 原価の低いドリンクやデザート1品が基本です。原価は数十円〜百数十円程度で済み、複数回来店の利益に対してごくわずか。現金値引きは利益を直接削るため、特典は「原価の安い現物」で設計しましょう。
Q4. 紙のカードとスマホのアプリ、どちらがいいですか?
A4. 客層で選びます。年齢層が高い店や単価が高い店は紙が好まれ、若年層中心ならアプリやLINEが再来店の導線として強い。両方の良し悪しがあるので、まずは今のお客さまが使い慣れた方から始めるのが失敗が少ないです。
Q5. 販促の効果はどう測ればいいですか?
A5. 「配布数」ではなく「その券で来た人数」と「2回目の来店数」で測ります。クーポンに通し番号や「初回」の一言を入れておけばレジで数えられます。回収の見込みが数字で言えない販促は、いったん止める判断が正解です。
Q6. 常連にもクーポンを配ったほうがいいですか?
A6. 基本は配りません。常連への値引きは利益を捨てるのと同じです。常連が喜ぶのは割引より「覚えていてくれること」。名前を呼ぶ、いつもの席を用意するなど原価ゼロの特別扱いのほうが、長期的なリピートには効きます。
Q7. 販促費は売上の何%くらいが目安ですか?
A7. 一般的には売上の3〜5%程度が一つの目安ですが、数字より「回収できているか」が本質です。同じ3%でも、測っていない店は無駄打ちが多く、測っている店は同額でより多くの再来店を生みます。まず1種類の販促を測ることから始めてください。
Q8. クーポンとスタンプ、どちらから始めるべきですか?
A8. 新規が足りないならクーポン、一度来た客が続かないならスタンプカードです。悩みの所在で選びます。両方を同時に始めるより、まず弱いほうを1つ設計し、数字を見て次を足すのが失敗しない進め方です。
まとめ
販促で損する店と伸びる店の差は、割引の大きさではなく「設計しているかどうか」です。クーポンは新規の入口、スタンプカードは常連化の回数。役割を分け、値引きは利益から出ることを忘れず、効果は再来店の数で測る。この3つを守るだけで、同じ販促費でも戻りはまったく変わります。
まずは、今配っている券の回収率と再来店率を数えてみることから始めてください。数字が見えれば、次の一手は自然と決まります。割引の率で悩む前に、「誰に、何回来てほしいか」を1枚の紙に書く。そこが、損しない販促の出発点です。
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飲食店の成功は、料理や立地だけで決まるものではありません。どのような価値を届け、誰に選ばれる店を目指すのかという「ブランド思想」も、来店後の満足度を左右します。
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