飲食店の帳簿づけは何から?会計の始め方と続け方
飲食店の会計・帳簿づけの始め方|数字が読める店になる第一歩
【この記事のポイント】
帳簿づけは、毎日3分の「レジ締めメモ」から始めれば続きます。最初から完璧を目指す必要はありません。まず売上と現金残高だけを記録する。それだけで、資金がいつ足りなくなるかが見えます。会計ソフトは月1,000円前後から使え、レシートを撮るだけで7割は自動で仕訳されます。難しいのは知識ではなく、続ける仕組みづくりです。
数字が読めない店は、儲かっているか赤字かを「感覚」で判断してしまいます。売上が過去最高でも現金が減り続けることは、飲食店では珍しくありません。帳簿はその矛盾を可視化する道具。月次で損益を締める習慣がつけば、値上げや仕入れ見直しの判断が一気に早くなります。
この記事では、経理未経験の店主が「記帳→会計ソフト→月次確認→資金繰り表」の順に無理なく数字と付き合えるようになる手順を、現場のつまずきごと整理します。専門用語は最小限に。今日から動ける形でお伝えします。
今日のおさらい:要点3つ
- 帳簿は「売上・現金・仕入れ」の3つから。完璧より継続を優先する。
- 会計ソフトは月1,000円前後。レシート撮影で入力の手間が7〜8割減る。
- 月次で損益を締め、資金繰り表で「3カ月先の現金」を先読みする。
この記事の結論
一言で言うと、帳簿づけは「税金のための作業」ではなく「店を潰さないための早期警報」です。最も重要なのは、毎日つける小さな記録を月次でまとめ、資金の流れを先読みできる状態にすること。数字が読める店主は、迷いを数字で断ち切れます。
「売上はいいのに、なぜか現金が残らない」の正体
閉店後、通帳をもう一度めくり直す夜
週末の売上票を見て「今月は行けたな」とレジを締める。なのに翌週、食材の支払いと家賃が重なった通帳を開いて、思わず二度見する。数字を並べ替えても答えは同じ。もう一度めくって、電卓を叩き直す。あの手の止まらなさ、覚えのある方は多いはずです。
正直なところ、この違和感の正体はほとんどが「タイミングのずれ」です。売上はカードや電子マネーで数日〜1カ月遅れて入金される一方、仕入れや人件費は先に出ていく。帳簿がないと、この時間差が見えません。損益(儲け)と資金(現金)は別物だという感覚が、頭では分かっていても腹落ちしていない状態です。
実体験:月商が過去最高なのに、支払いが回らなかった店
ある居酒屋で、歓送迎会シーズンに月商が普段の1.4倍、320万円まで伸びた月がありました。ところが翌月、店主から「支払いが足りない」と相談が。理由を帳簿で追うと単純でした。予約客の多くがカード払いで、入金は約1カ月後。なのに増えた分の食材費・追加バイトの給与は先に現金で出ていた。売れたぶんだけ、立て替え額が膨らんでいたのです。
この店はそれまで手書きの売上メモしかなく、現金残高を追う習慣がありませんでした。会計ソフトを入れて「入金予定日」を記録し始めたら、翌シーズンは同じ売上でも慌てずに済んだ。ビフォーは繁忙期こそ資金が細る店、アフターは繁忙期に備えて運転資金を厚くできる店。変わったのは売上ではなく、数字の見え方だけでした。
「どんぶり勘定」で失われているもの
記帳を後回しにすると、確定申告の直前にレシートの山と格闘することになります。それだけではありません。中小企業庁の調査でも、業績を数値で把握している事業者ほど資金繰りの安定度が高い傾向が示されています。数字を見ていない店は、値上げのタイミングも、削るべきコストも、勘に頼るしかない。判断が一手ずつ遅れるのです。
まず何から?記帳・会計ソフト・月次の基本
最初に記録するのは、たった3つでいい
簿記を勉強してから始めよう、と考えると永遠に始まりません。よくあるのが、参考書を買って満足してしまうパターン。まず記録すべきは①その日の売上、②手元と口座の現金残高、③仕入れ・経費の支払いの3つだけ。これを毎日のレジ締めと一緒に3分でメモする。続けられる量から始めるのが、結局いちばんの近道です。
勘定科目も、最初は細かく分けなくて構いません。食材費・人件費・家賃・水道光熱費・その他、くらいの粗さで十分。慣れてきたら分ければいい。大事なのは、空欄の日をつくらないこと。ケースによりますが、1週間分をまとめてつけようとすると、たいてい記憶が曖昧になって挫折します。
会計ソフトは「レシート撮影」で選ぶ
クラウド会計ソフトは月額1,000円前後から使えます。実は、料金より重要なのが「スマホでレシートを撮ると自動で仕訳される」機能。手入力に比べて、入力の手間が体感で7〜8割減ります。銀行口座やキャッシュレス決済と連携させれば、入出金は自動で取り込まれる。人が触るのは、現金払いのレシートくらいになります。
選ぶときは、自分の使う決済サービスと連携できるか、税理士とデータ共有しやすいかを基準に。多機能さで選ぶより、毎日触れる画面が分かりやすいものを。無料お試し期間で、レシートを数枚撮って「面倒に感じないか」を確かめてから決めると失敗が少ないです。
現場の声:月次を始めた店主のリアル
実体験をもう一つ。開業2年目のカフェ店主と、月次決算の習慣づけに取り組んだときのやり取りです。
店主「毎月締めるって、正直そこまで意味あります?年に1回申告できればいいのかと」
担当「先月の原価率、何%でした?」
店主「…えっと、たぶん35%くらい、かな」
担当「実際は41%でした。ドリンクの仕入れ単価が春に上がってたんです」
この店は月次を始めて2カ月で、値上げされていた仕入れに気づき、取引先と交渉。原価率を41%から36%へ戻し、月あたり約8万円の利益改善につながりました。年1回の申告だけでは、この6%は半年以上見過ごされていたはずです。月次は「税務」ではなく「経営」のためにある、と店主自身が言うようになりました。
よくある失敗と、その防ぎ方
失敗①:現金とプライベート財布が混ざる
いちばん多いのがこれ。レジの現金から店主が「ちょっと立て替え」で私物を買ったり、逆に自腹で仕入れたり。これをやると、帳簿の現金残高と実際が合わなくなります。防ぎ方はシンプルで、店用の口座とカードを1枚、生活用と完全に分けること。個人事業でも、事業用財布を物理的に別にするだけで記帳精度が跳ね上がります。
失敗②:レシートを「あとでまとめて」で山にする
まとめて処理は、続かない代表格です。防ぐには、レジ横に小さなトレーを置き、その日の仕入れレシートは帰る前に撮る・箱に入れるだけと決めてしまう。処理を1日単位に区切ると、負担が分散します。日本政策金融公庫の創業者向け資料でも、記帳の習慣化が資金管理の第一歩として繰り返し挙げられています。
自分でやるか、税理士に頼むかの判断基準
ここは他店の選択も含めて公平に。記帳を自分でやる最大の利点は、数字に日々触れて経営感覚が磨かれること。デメリットは時間を取られること。税理士に依頼すると月1〜3万円ほどかかりますが、申告の正確さと相談相手が得られる。判断基準は、「月次を自分で締める余力があるか」と「売上規模が法人化を視野に入れる段階か」。日々の記帳は自分、確認と申告は税理士、という折衷が現実的な店も多いです。どちらが正解ということはありません。
こういう人は、今日から帳簿を始めるべき
「売上は悪くないのに、なぜか手元にお金が残らない」。もし今その感覚があるなら、それは帳簿を始める合図です。原因を勘で探すより、3つの記録をつけて資金の流れを見たほうが、答えは早く出ます。
難しく考えなくて大丈夫。今夜のレジ締めから、売上と現金残高をノートに書くだけでいい。それが3カ月続けば、あなたの店は「感覚の経営」から「数字が読める経営」へ静かに変わり始めます。完璧な帳簿より、明日も続く帳簿を。まず一歩、手を動かすところからです。
よくある質問
Q1. 簿記の知識がなくても帳簿はつけられますか?
A1. つけられます。クラウド会計ソフトは仕訳を自動化してくれるため、最初に必要なのは「売上・現金・支払い」を記録する習慣だけ。簿記は続けながら覚えて十分間に合います。
Q2. 会計ソフトと手書き、どちらがいいですか?
A2. 月1,000円前後で使える会計ソフトを推奨します。レシート撮影と口座連携で入力の手間が7〜8割減り、確定申告書類も自動作成できるため、手書きより結局ラクです。
Q3. 毎日つけないとダメですか?
A3. 理想は毎日3分のレジ締めメモです。まとめてつけると記憶が曖昧になり精度が落ちます。最低でも売上と現金残高だけは、その日のうちに記録してください。
Q4. 月次決算は何を確認すればいいですか?
A4. まずは売上・原価率・人件費率・利益の4つ。特に原価率とFL比率(食材費+人件費)の推移を見れば、値上げや仕入れ見直しの判断が早まります。
Q5. 資金繰り表は本当に必要ですか?
A5. 必要です。損益が黒字でも現金は不足し得ます。入金予定と支払予定を並べ、3カ月先までの現金残高を先読みすれば、黒字倒産のリスクを大きく下げられます。
Q6. 税理士にはいつ頼むべきですか?
A6. 月次を自分で締める余力がない、または法人化を検討する段階が目安です。費用は月1〜3万円程度。日々の記帳は自分、申告は税理士という分担も有効です。
Q7. 開業直後で売上が少なくても記帳は要りますか?
A7. 要ります。むしろ売上が小さいうちに習慣化するのが最も楽です。創業融資の返済計画や、青色申告特別控除(最大65万円)の要件にも記帳は不可欠です。
まとめ
帳簿づけは、税務署のためではなく、あなたの店を守るための道具です。まずは売上・現金・支払いの3つを毎日3分で記録する。会計ソフトでレシート入力を自動化し、月次で損益を締める。ここまで来れば、原価率のわずかな変化にも気づける「数字が読める店」になっています。
そして最後の鍵が、資金繰り表で3カ月先の現金を先読みすること。売上がいいのに現金が残らない、あの不安の正体はここで解けます。完璧を目指す必要はありません。今夜のレジ締めから、ノート1行の記録を始めてみてください。その1行が、半年後の判断の速さを変えます。
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