飲食店の最低賃金引き上げにどう対応する?人件費と価格の考え方
最低賃金が上がると飲食店はどうなる?値上げと生産性、どちらを先に動かすか
【先に答えを整理します】
最低賃金の引き上げは、飲食店にとって「毎年くる固定費の上昇」です。一時的な出来事ではありません。全国加重平均は1,100円台に入り、毎年の改定が前提になりました。対応の順番は決まっています。先に生産性、次に価格。この順番を逆にすると、客が減って人件費率だけが残ります。まず1人1時間あたりの売上を出す。そこからです。
正直なところ、時給を上げたくない経営者はほとんどいません。悩みは「上げたいが、どこから原資を出すか」です。しかも最低賃金に合わせて下限だけ上げると、長く働くベテランとの差が縮む。この「圧縮」が、実は離職の引き金になります。金額の問題ではなく、順序と説明の問題なんです。
この記事では、人件費率の見方、生産性を上げる具体策、値上げに踏み切るときの伝え方を、現場でつまずきやすい順に並べます。読み終えたら、自店が「値上げ待ち」なのか「仕組み直し待ち」なのかを判断できるはずです。
最初に確認したい3点
- 飲食店の人件費率は30%前後が目安。35%を超え続けるなら、時給より先に人の配置と業務量を見直す段階
- 対応の順番は①生産性②メニュー構成③価格。価格から入ると、客単価は上がっても客数が落ちて相殺される
- 下限だけ上げると既存スタッフとの差が縮む。昇給の基準を同時に作らないと、ベテランから辞めていく
まず押さえたい結論
最も重要なのは、時給の引き上げを「コスト増」ではなく「1時間あたりの成果をどう上げるか」という問いに変換することです。同じ3時間で売上が1.2倍になれば、時給50円の上昇は吸収できます。逆に、業務量をそのままにして時給だけ上げれば、利益が消えるだけ。順序が全てを決めます。
「上げた分が、どこにも残らない」の正体
給与計算の画面を閉じて、電卓を叩き直す夜
10月の改定通知を見たあと、シフト表と給与データを並べて電卓を叩く。時給を50円上げると、月の人件費は約8万円増える。来月の予約状況を見ても、売上がその分増える見込みはない。もう一度計算しても答えは同じ。画面を閉じて、また開く。この繰り返しに、心当たりのある方は多いはずです。
よくあるのが、ここで「シフトを削る」に直行してしまうこと。たしかに人件費は下がります。ただ、提供が遅れ、片付けが追いつかず、クチコミの点数が落ちる。3か月後に客数が減って、結局売上も落ちる。削るべきは人数ではなく、人がやっている無駄な作業のほうです。
数字で見る:1人1時間あたりの売上という指標
人時売上高という考え方があります。売上÷総労働時間。仮に月商500万円、総労働時間1,250時間なら、1時間あたり4,000円です。時給1,100円なら人件費率は27.5%。ここで時給が1,150円になると28.8%。約1.3ポイントの上昇です。
この1.3ポイントを埋める方法は2つしかありません。総労働時間を減らすか、売上を上げるか。仮に総労働時間を1,250時間から1,200時間へ、つまり月50時間削れば、人時売上は4,167円に上がって元の水準に戻ります。50時間は、1日あたり約1.7時間。仕込みの集約、発注の一括化、閉店作業の手順変更で届く範囲です。ケースによりますが、机上の空論ではありません。
よくある失敗:下限だけ上げて、差が消える
時給1,050円のスタッフと1,200円のベテランがいる店で、下限が1,100円になったとします。新人は1,100円、ベテランは据え置き。差は150円から100円に縮みます。本人は口に出しません。ただ「同じ時給で、自分だけ責任が重い」と感じ始める。半年後に辞める理由は、たいていここです。
実は、この圧縮は意外と安く解消できます。ベテラン5人に50円上乗せしても、1人月80時間なら月2万円。店の存続に関わる金額ではありません。むしろ、採用して教育し直すコストのほうが高い。下限を上げるときは、上も同時に動かす。これを原則にしておくと迷いません。
生産性から先に動かす、3つの打ち手
①仕込みと発注を、人から仕組みへ移す
毎朝それぞれが自分の判断で仕込む店は、必ず重複と欠品が出ます。仕込み表を1枚にして、担当と数量を固定する。発注も日々ではなく週2回にまとめる。これだけで、1日1時間近く浮く店があります。地味ですが、時給を上げるより先に効く打ち手です。
②ピークとアイドルで、人の厚みを変える
飲食店の非効率は、暇な時間に人がいることで生まれます。11時〜14時と18時〜21時に人を厚くし、その間を薄くする。シフトを2時間刻みで組み替えるだけで、総労働時間は削れます。ただしスタッフの収入が減るので、時給の引き上げと同時に出すのが筋です。「時間は減るが時給は上がる、手取りは維持」という説明ができれば、納得は得られます。
③機器とシステムに、人の作業を置き換える
食洗機の更新、真空包装機の導入、モバイルオーダー。どれも初期費用はかかります。判断の軸は単純で、「浮く時間×時給×12か月」が投資額を何年で回収するか。仮に月20時間浮いて時給1,150円なら年間約27万円。50万円の機器なら2年弱で回収です。回収3年以内なら検討の価値があります。
現場での会話は、だいたいこうなる
「時間を2時間削るって、要は収入減ってことですよね」。シフトの組み替えを説明すると、まずこう返ってきます。ここで黙ると不信が残る。「時給は50円上がるから、週4日なら月の手取りはほぼ同じ。ただ拘束時間は減る」と、数字で返すところまで準備しておく必要があります。
「でも暇な時間のほうが楽なんですけど」。これも本音です。実際、ピークに集中するシフトはしんどい。だから組み替えと同時に、休憩の取り方と残業の扱いもセットで示す。「忙しい2時間を増やす代わりに、休憩は確実に45分取る」。この交換条件がないと、理屈では正しくても現場が動きません。
正直なところ、生産性の改善はスタッフの協力なしには進みません。説明を「お願い」で済ませず、本人の手取りとシフトの見通しという具体的な数字で話す。ここに時間をかけた店のほうが、結果的に定着率も落ちません。
値上げに進むかどうかの判断基準
①人件費率が35%を超えているか
30%前後が一般的な目安で、業態によって幅があります。35%を超え続けている店は、価格の問題より配置の問題が大きい。先に配置を直してから価格を触るほうが、客離れのリスクが小さくなります。
②前回の改定から1年以上あいているか
毎年少しずつ上げる店と、3年に1度まとめて上げる店では、客の反応が違います。一度に10%上げると気づかれますが、3%なら多くの客は反応しません。改定の記録を残し、間隔を管理することが地味に効きます。
③看板メニューは据え置けるか
全品一律で上げるのは、実は損です。看板メニューの価格は記憶されています。ここを据え置き、サイドとドリンクで調整する。原価率の低いドリンクを強化すれば、全体の粗利は上がります。値上げというより、構成の組み替えです。
④比較した人が最後に確認していたこと
対応を検討する店が最後に見ていたのは、他店の価格ではなく「自店の客が何を理由に通っているか」でした。安さで来ている客が多ければ、値上げの影響は大きい。料理や空間で来ている客が多ければ、影響は小さい。クチコミを50件ほど読み返して、価格に言及している比率を数える。これが一番手っ取り早い診断です。
公的な統計を当たるなら、厚生労働省が公表している地域別最低賃金の推移と、中小企業庁の業種別経営指標が参考になります。他店の噂より、こちらのほうが落ち着いて判断できます。
検討中の方から多い質問
Q1. 時給は最低賃金ぴったりでいいですか?
A1. 可能ですが、採用では不利になります。同一エリアの求人を10件ほど見ると、相場は最低賃金より50〜100円上に集まっていることが多い。募集が集まらない原因が時給なのかを先に確かめてください。
Q2. 改定はいつから適用されますか?
A2. 地域別最低賃金は毎年10月前後に発効します。発効日からの勤務が対象です。前月分の給与計算が月をまたぐ店は、締め日のどこで線を引くかを事前に決めておいてください。
Q3. 深夜手当も上がりますか?
A3. 上がります。22時以降は25%以上の割増が必要で、基礎となる時給が上がれば割増額も連動します。深夜営業の比率が高い店は、引き上げの影響がやや大きく出ます。
Q4. 値上げは何%までなら許容されますか?
A4. 一度に3〜5%なら反応は小さい、という例をよく見ます。10%を超えると来店頻度に影響が出やすい。一律ではなく、品目ごとに幅を変えるほうが安全です。
Q5. 人件費を下げるために業務委託に切り替えられますか?
A5. 実態が指示を受けた勤務なら、契約名を変えても労働者と判断されます。名称だけの切り替えは危険です。使うなら、業務の切り出し方から設計し直してください。
Q6. 助成金で負担を軽くできますか?
A6. 設備投資や賃上げに対する支援制度が用意されている年度があります。公募時期が限られるため、中小企業庁や各自治体の情報を定期的に確認するのが現実的です。
Q7. パートの社会保険料も増えますか?
A7. 時給が上がると月額賃金が上がり、加入条件に該当する人が増える可能性があります。週20時間前後で働く人のシフトは、改定後に一度見直しておくとよいです。
Q8. 何から手をつければいいですか?
A8. 人時売上高の計算です。売上÷総労働時間を3か月分出す。この数字が分かれば、価格を触るべきか、配置を触るべきかが自動的に決まります。
11月のうちに出しておきたい数字
最低賃金の引き上げは、避けられない前提として扱うほうが楽になります。対応の順番は、生産性、メニュー構成、価格。この順に動かせば、客を減らさずに吸収できる余地があります。下限を上げるときは、同時にベテランの時給も動かす。ここを忘れると、せっかく上げたのに人が抜けます。
まず3か月分の売上と総労働時間を並べて、人時売上高を出してみてください。4,000円を下回っているなら、価格より配置の見直しが先。5,000円を超えているなら、価格の調整で吸収できる余地があります。判断の材料は、すでに自店のデータの中にあります。
株式会社Somewhereは名古屋を中心に20店舗を展開し、毎月の昇給制度と評価面談を仕組みとして持つことで、時給や待遇の変化をその場しのぎにしない運営を続けています。多業態の現場での人の配置や育成について聞いてみたい方は、お問い合わせからご連絡ください。
名古屋の飲食店選びを、ブランド思想から考える
飲食店の成功は、料理や立地だけで決まるものではありません。どのような価値を届け、誰に選ばれる店を目指すのかという「ブランド思想」も、来店後の満足度を左右します。
名古屋の飲食店ブランドが大切にしている考え方と、店選びの基準を整理したい方は、こちらの記事もぜひご覧ください。
👉名古屋の飲食店ブランドとは何か|店選びの満足度を左右する「ブランド思想」の構造整理
名古屋での店選びや料理ジャンルの違い、飲食店が生み出す体験価値について、テーマ別に詳しく紹介しています。飲食業界でのキャリアや、ブランドづくり・店舗経営の判断軸を知りたい方も、以下のカテゴリーから気になるテーマをご覧ください。
👉名古屋グルメ判断
👉飲食のジャンル理解
👉飲食店の体験と価値
👉飲食キャリア
👉飲食ブランド経営判断
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
🍽 株式会社Somewhere
私たちは「もう一度行きたくなる価値ある飲食店」を目指し、
料理・サービス・空間、そしてそのお店でしか味わえない体験を大切にしています。
📍 本社所在地
〒460-0008
愛知県名古屋市中区栄三丁目25番43号
瑞穂ビル3階
📞 電話番号
052-253-7270
🏪 店舗
20店舗(2026年9月現在)
🔎 店舗一覧はこちら
https://somewhereltd.jp/restaurant/
💼 採用情報はこちら
https://somewhereltd.jp/recruit/
お近くの店舗へぜひお気軽にお立ち寄りください。
皆さまのご来店を心よりお待ちしております。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━

