飲食店の人手不足はどう乗り切る?採用と定着の両面から

飲食店の人手不足はどう乗り切る?採用と定着を両立させる工夫

【この記事のポイント】

飲食店の人手不足は、採用だけでは解決しない。採用と定着の両輪で回すのが正解だ。求人にいくらお金をかけても、入った人が3か月で辞めれば、また同じ穴を埋める作業に戻る。まず着手すべきは、今いる人が辞めない環境づくり。定着率が10%上がれば、必要な採用数はその分だけ減る。

人手不足の根っこは「人が来ない」ことより「人が残らない」ことにあるケースが多いです。厚生労働省の雇用動向調査でも、宿泊・飲食サービス業の離職率は全産業の中で長年トップクラス。つまり採用の蛇口をひねる前に、バケツの穴をふさぐ順番が効きます。

この記事では、採用が集まらない本当の理由、辞めない職場のつくり方、そして少ない人数でも店が回るオペレーションの整え方を、現場のケースと数字を交えてお伝えします。正直なところ、魔法の一手はありません。ただ、順番を間違えなければ確実に楽になります。

今日のおさらい:要点3つ

  • 採用より先に定着。今いる人が辞めない環境を整えると、必要な採用数が減る。
  • 多能工化とオペ効率化で、必要な人数そのものを下げる。ピーク1時間の設計がカギ。
  • 求人は「時給」より「働く理由」で差がつく。募集文と初日の受け入れで応募と定着が変わる。

この記事の結論

一言で言うと、人手不足は「採用の問題」ではなく「定着とオペレーションの問題」です。最も重要なのは、辞める人を減らして、少ない人数でも回る仕組みをつくること。採用に走るのはその後で十分に間に合います。

なぜ募集をかけても人が集まらず、入っても続かないのか

求人サイトの管理画面を、夜な夜な開き直してしまう

応募通知が来ない日が続くと、閉店後に何度も求人サイトを開き直してしまう。時給を50円上げるべきか、写真を差し替えるべきか、募集文の書き出しを変えるべきか。答えの出ないまま画面をスクロールし、気づけば深夜1時。翌朝はまた仕込みとホールで一日が終わる。

この状態、実は「募集の出し方」より前に、店側の余裕がなくなっているサインでもあります。人が足りないから既存スタッフの負担が増え、負担が増えるから辞める人が出て、また足りなくなる。よくあるのが、この負のループに入っていることに店長自身が気づけないケース。数字で言えば、常に1〜2名不足の状態が半年続くと、残ったスタッフの離職確率は目に見えて上がります。

「時給が低いから来ない」は、半分しか当たっていない

時給はもちろん大事な要素です。ただ、周辺相場より30円高くしても応募が増えなかった、という話は珍しくありません。求職者が見ているのは、時給と同じくらい「シフトの融通」「初めてでも大丈夫か」「人間関係が悪くないか」。募集文にそれらが一言も書かれていなければ、時給だけで選ばれる勝負になり、大手チェーンに埋もれます。

ケースによりますが、個人店や小規模店の強みは「顔が見える働きやすさ」です。そこを言語化せずに「ホールスタッフ募集・時給1,100円〜」だけで出すのは、正直もったいない。応募のハードルは、金額より「自分でも務まりそう」という安心感で下がります。

【実体験①】募集文を変えただけで応募が3倍になった店

ある20席ほどの居酒屋での話です。半年間ほぼ応募ゼロ。募集文は「元気なホールスタッフ募集!」の一行のみでした。そこで、①週2日・3時間からOK、②未経験の主婦・学生が半数、③まかない無料、④シフトは1週間ごとに希望を出せる、という4点を具体的に書き足しました。時給は1円も上げていません。

結果、翌月の応募は1件から3件へ。2か月で2名の採用に至りました。効いたのは「週2・3時間から」という一文。フルで入れない層が、自分事として読めるようになったからです。募集は情報量の勝負でもある、と実感した出来事でした。

辞めない職場をつくる基本と、判断の軸

最初の1か月で、定着するかどうかはほぼ決まる

早期離職の多くは、入って1か月以内に起きます。理由の上位は「放置された」「誰に聞けばいいか分からなかった」「思っていた仕事と違った」。裏を返せば、初日から2週間の受け入れを丁寧にするだけで、定着率は大きく変わります。ここは採用コストと違って、ほぼお金がかからない改善ポイント。

具体的には、初日に「今日はここまでできれば十分」というゴールを伝える。分からないときの質問相手を1人決めておく。1週間後に5分でいいので「困っていることはない?」と声をかける。この3つだけで、辞める確率は体感で半分近くまで下がります。

【実体験②】多能工化で、繁忙期の1名不足を吸収した

別のカフェでは、ホールとキッチンを完全に分けていました。片方が休むともう片方も回らず、常に人手が足りない感覚。そこで、ホールの人にもドリンクとデザートの盛り付けだけ覚えてもらい、キッチンの人にもレジと片付けを任せる「半歩だけ越境する」多能工化を進めました。

全員が全部できる必要はありません。境目の作業を2〜3個共有するだけで、ピーク時に手が空いた人が自然に動けるようになる。結果、以前は5名必要だったピークタイムが4名でも回るようになり、シフトの穴埋めに追われる回数が月に4〜5回減りました。人を増やす前に、今の人の守備範囲を少し広げる。これが効きます。

現場の声:辞めようとしていたスタッフの本音

実際にあったやり取りです。

スタッフ「正直、来月で辞めようと思ってました」
店長「えっ、何かあった?時給の話?」
スタッフ「いえ…自分がちゃんとできてるのか、誰も何も言ってくれなくて。いる意味あるのかなって」

辞める理由は、待遇よりも「認められていない感覚」だったわけです。この後、店長が意識して「今日の盛り付け良かったよ」と一言かけるようにしたところ、その人は今も続けています。人件費を上げなくても、承認の一言で残る人は確かにいる。ケースによりますが、見落とされがちな部分です。

よくある失敗と、その防ぎ方

失敗①:足りないからと、慌てて誰でも採ってしまう

人手が切迫すると、面接で違和感があっても「今すぐ来てくれるなら」と採ってしまいがち。ところが、価値観の合わない人を入れると、既存スタッフが疲れて逆に辞める、という二次被害が起きます。急場しのぎの1名が、半年後に2名分の穴を生むこともある。採用基準は、忙しいときほど下げないのが鉄則です。

失敗②:教育を「見て覚えて」で済ませてしまう

忙しさを理由に、手順を口頭だけで伝えて放置。これだと、教える人によって内容がぶれ、新人は不安になります。A4一枚でいいので、初日にやること・1週間でできてほしいことを紙にしておく。これだけで、教える側の負担も減り、新人の「何をすればいいか分からない」が消えます。属人化を防ぐ第一歩です。

定着施策を比較するときに、確認したこと

人手不足の対策には、時給アップ、採用媒体の追加、シフト管理アプリ、外国人材や派遣の活用など複数の選択肢があります。どれが正解かは店によって違う、というのが正直なところ。判断基準はシンプルで、「その施策は採用を増やすものか、定着を高めるものか、必要人数を減らすものか」を最初に分けて考えること。

比較した人が最終的に確認していたのは、費用対効果より「続くかどうか」でした。派遣は即効性がある反面コストが高く、外国人材は定着しやすい一方で受け入れ体制の整備が要る。自社の弱点が採用側か定着側かを見極めてから選ぶと、無駄打ちが減ります。どれも一長一短で、万能な手段はありません。

こういう店は、今すぐ定着対策から始めるべき

もし「毎月のように求人を出しているのに、いつも人が足りない」なら、それは採用ではなく定着の問題である可能性が高い。まずは今いるスタッフ一人ひとりと、5分でいいので話す時間を取ってみてください。辞めようとしている人の本音は、たいてい待遇より前に「働きやすさ」や「認められている感覚」にあります。

大がかりな制度改革は要りません。初日の受け入れを丁寧にする、境目の作業を共有する、一日一言の声かけを増やす。この小さな積み重ねが、半年後の「また募集しなきゃ」を減らします。今日の閉店後、まずは一人に声をかけるところから始めてみましょう。

よくある質問

Q1. 人手不足で、まず着手すべきは採用と定着のどちらですか?

A1. 定着が先です。今いる人が辞めない環境を整えると、必要な採用数そのものが減ります。定着率が10%上がれば、その分だけ採用の負担が軽くなります。

Q2. 応募が全然来ません。時給を上げるべきでしょうか?

A2. 上げる前に募集文を見直してください。「週2・3時間から」「未経験歓迎」など具体条件を書き足すだけで応募が2〜3倍になった例があります。まずは情報量です。

Q3. 新人がすぐ辞めてしまいます。原因は何ですか?

A3. 早期離職の多くは入って1か月以内に起き、「放置された」が上位理由です。初日にゴールを伝え、質問相手を1人決めるだけで辞める確率は下がります。

Q4. 多能工化とは、全員が全部できるようにすることですか?

A4. 違います。境目の作業を2〜3個だけ共有すれば十分です。ピーク時に手が空いた人が動けるようになり、必要人数を1名減らせるケースもあります。

Q5. 派遣や外国人材の活用は有効ですか?

A5. 一長一短です。派遣は即効性が高い反面コストがかかり、外国人材は定着しやすい一方で受け入れ体制が要ります。自社の弱点が採用側か定着側かで選びましょう。

Q6. 人件費を上げずに定着率を上げる方法はありますか?

A6. あります。一日一言の声かけが代表例です。辞める理由は待遇より「認められていない感覚」が多く、承認の一言で残る人は確かにいます。コストはゼロです。

Q7. 飲食業の離職率は本当に高いのですか?

A7. 高い水準です。厚生労働省の雇用動向調査でも、宿泊・飲食サービス業の離職率は全産業でトップクラスが続いています。だからこそ定着施策の効果が大きい業種です。

Q8. 教育マニュアルはどこまで作り込むべきですか?

A8. まずはA4一枚で十分です。初日にやること、1週間でできてほしいことを書くだけで、教える側の負担が減り、新人の不安も消えます。完璧を目指さず始めましょう。

まとめ

飲食店の人手不足は、採用の努力だけでは解決しません。今いる人が辞めない環境を整え、少ない人数でも回る仕組みをつくる。この定着とオペレーションの土台があってはじめて、採用の一手が生きてきます。順番を間違えないことが、遠回りに見えて一番の近道です。

初日の受け入れ、境目の作業の共有、一日一言の声かけ。どれもお金をかけずに今日から始められることばかりです。まずは一つ、今夜の閉店後にできることから手をつけてみてください。半年後の「また募集しなきゃ」が、確実に減っていきます。



名古屋の飲食店選びを、ブランド思想から考える



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