飲食店の衛生管理の基本は?HACCPで何をすればいい

飲食店の衛生管理とHACCP対応|小さな店が最低限やるべきこと

【この記事のポイント】

飲食店のHACCP対応は、2021年6月から原則すべての店で義務化されている。小さな店がやることは3つ。「衛生計画を作る」「毎日記録する」「その通りに運用する」。特別な設備投資は不要。厚生労働省の手引書に沿えば、A4数枚と体温計・温度計で始められる。難しく考えるより、まず1日1枚の記録から。

「HACCPって、大きな工場の話でしょう?」——正直なところ、そう思っている個人店の方はまだ多いです。ですが、2021年6月に完全義務化され、席数3席の店でも対象になりました。厚生労働省が示す小規模事業者向けの方式は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」と呼ばれ、本格版よりぐっと簡略化されています。要は、毎日やっている手洗いや温度チェックを「決めて・書いて・守る」だけ。

この記事では、私たち株式会社Somewhereが全国17店舗を運営するなかで実際にやってきた衛生管理の型を、現場のつまずきとあわせて具体的にお伝えします。制度の建前ではなく、明日から手を動かせる最低限だけを書きます。

今日のおさらい:要点3つ

  • HACCPは2021年6月から全飲食店に義務化。小規模店は簡略版「考え方を取り入れた衛生管理」でOK。罰則より、まず未対応リスクを避ける。
  • やることは「衛生管理計画を作る」「毎日記録する」「計画通り運用する」の3ステップ。厚労省の業種別手引書をそのまま使えば1日で骨組みが作れる。
  • 核は温度管理と手洗い。冷蔵は10℃以下、加熱は中心75℃1分以上が基本ライン。記録は「異常なし」に丸をつけるだけの様式で十分。

この記事の結論

一言で言うと、小さな店のHACCPは「今やっている衛生管理を、紙に残す仕組みに変える」だけです。最も重要なのは、完璧な書類ではなく、毎日続けられる記録にすること。項目を増やしすぎた店ほど3日で挫折します。まずは温度と手洗いの2項目から。1枚のチェック表を厨房に貼るところから始めれば、保健所の立入にも、万一の事故にも、静かな盾になります。

「うちは大丈夫」——その油断が、いちばん危ない

手引書を開いては閉じ、また閉店後に思い出す

営業許可の更新通知が届いて、そういえばHACCPの書類、まだ作っていなかったと思い出す。ネットで「飲食店 HACCP やり方」と検索し、出てきた手引書のPDFを開く。ページ数の多さにため息をつき、「今日は忙しいから、また今度」とタブを閉じる。閉店後、疲れた体で厨房を片付けながら、また頭の片隅に引っかかる。この繰り返し。

よくあるのが、この「後回しの無限ループ」です。制度が難しそうに見えるから、最初の一歩が重い。でも実際に作った人の多くが「拍子抜けするほど簡単だった」と言います。厚労省の手引書には、そのまま使える計画書と記録用紙の様式がついていて、店の実態に合わせて丸をつけるだけ。ゼロから設計する必要はどこにもありません。

HACCPで最低限やることは、この3つだけ

小規模店に求められる「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は、分解すると次の3ステップに整理できます。この枠さえ押さえれば、あとは埋めていくだけです。

  • 衛生管理計画を作る:一般衛生管理(手洗い・清掃・器具消毒など)と、メニューごとの重要管理(加熱・冷却の温度)を決める。
  • 計画に沿って実行する:決めた通りに温度を測り、手を洗い、清掃する。日々の当たり前を「基準どおり」にそろえる。
  • 記録して確認する:実施したかを1日1枚チェック。問題があれば直し、必要に応じて計画を見直す。

ポイントは、メニューを「加熱する・冷やして出す・生で出す」の3グループに分けて考えること。全料理を個別管理するのではなく、調理の型でまとめる。これが小規模版のいちばんの肝で、作業を一気に減らしてくれます。

実体験①:記録用紙を「1枚」に減らしたら、続くようになった

Somewhereのある業態で、最初に作った衛生記録は項目が15を超えていました。冷蔵庫3台の温度、加熱温度、手洗い回数、清掃箇所……。真面目に作りすぎたのです。結果、スタッフは開店準備に追われて記入が飛び、2週間で白紙のまま放置。「書くための書類」になってしまいました。

そこで思い切って、様式を1日1枚・チェック中心に作り直しました。冷蔵温度は「10℃以下=OK」に丸、加熱は「中心75℃・1分以上=OK」に丸、手洗いと清掃は「実施した=レ点」。所要時間は開店前と閉店後で合わせて2分弱。すると記入率が9割を超え、3か月続きました。ある日、冷蔵庫の温度が12℃を指しているのに気づいて早期に修理でき、食材ロスも食中毒も未然に防げました。正直、記録の本当の価値は「異常に早く気づけること」だと、このとき腹落ちしました。

衛生管理の基本と判断軸:温度・手洗い・記録

温度管理:冷蔵10℃以下、加熱は中心75℃・1分以上

衛生管理の中心は、なんといっても温度です。食中毒菌の多くは、10℃〜60℃のあいだで増えやすい。だから冷蔵庫は10℃以下(冷凍は-15℃以下)、加熱は食材の中心が75℃で1分以上——ノロウイルスが心配な二枚貝などは85〜90℃で90秒以上が目安になります。ここは感覚ではなく、中心温度計で「測って確かめる」のが原則です。

もうひとつ見落としがちなのが、加熱後の「冷まし方」です。作り置きをゆっくり常温で冷ますのが、実はいちばん菌が増えやすい。粗熱は素早く取り、速やかに冷蔵へ。ケースによりますが、氷水や小分けで冷却時間を縮めるだけで、リスクは大きく下がります。厚生労働省の食中毒統計を見ても、原因の多くは特別な事故ではなく、この温度管理の甘さから生まれています。

手洗いと器具消毒:「いつ洗うか」を決めておく

手洗いは、回数より「タイミングを決める」ことが効きます。トイレの後、生肉・生魚に触れた後、盛り付けの前、金銭に触れた後。この4場面を貼り出すだけで、抜けが激減します。まな板や包丁も、肉用・魚用・野菜用を色で分けるか、使うたびに洗浄・消毒する運用にする。実は、交差汚染(生の食材の菌が加熱済みの料理に移ること)は、飲食店の食中毒でとても多い原因です。

Somewhereの焼肉業態では、生肉を扱うトングと、焼けた肉を取るトングを色で分け、卓上にも「生肉用」の表示を徹底しました。導入前はスタッフの判断任せでしたが、色分け後はお客様自身も自然と使い分けてくれるように。仕組みで守れる部分は、人の注意力に頼らない。これが継続のコツです。

現場の声:「記録って、何のために書くんですか?」

衛生記録を始めると、必ず出てくるのがこの疑問です。ある店で、新人スタッフとこんなやり取りがありました。

新人「毎日同じ『異常なし』を書くの、正直ムダに感じるんですけど……」
店長「気持ちはわかる。でもさ、もし万が一お腹を壊したお客様が出たとき、この記録があるかないかで店の立場が全然違うんだよ」
新人「立場、ですか?」
店長「うん。『毎日ちゃんと温度を測って、基準どおりやってました』を証明できる。逆に記録がないと、疑われても反論できない。これは自分たちを守る保険なんだ」

この会話のあと、新人の記入が丁寧になりました。記録は「お役所のための書類」ではなく、「事故が起きたときに店を守る証拠」。目的が腹落ちすると、義務感が主体性に変わります。

実体験②:立入検査で「記録の有無」を最初に聞かれた

保健所の立入検査が入ったときのこと。担当者がまず確認したのは、厨房の清潔さと並んで「衛生管理計画と記録があるか」でした。義務化以降、ここは必ずチェックされる項目です。計画書を見せ、直近1か月の記録用紙を出したところ、それだけで検査はスムーズに進みました。

逆に、系列外の知人の店では記録が未整備で、後日改善報告を求められたと聞きました。罰則がすぐに科されるわけではありませんが、指導→改善命令→それでも従わなければ営業停止という流れは制度上あり得ます。要は、日々の1枚を積み重ねているかどうか。備えている店は、検査を「怖いもの」ではなく「答え合わせ」として迎えられます。

よくある失敗と、その防ぎ方

失敗①:計画を作って満足し、記録が続かない

いちばん多いのが、計画書だけ立派に作って、肝心の日々の記録が3日坊主になるパターンです。HACCPは書類を作ることが目的ではなく、決めたことを毎日守ることが本体。記録が止まっている店は、計画があっても「運用していない」とみなされます。様式は削れるだけ削り、続くことを最優先にしてください。

失敗②:高価な機器やコンサルから入ってしまう

「HACCP対応」をうたう高額な温度管理システムや、数十万円のコンサル契約から入る必要は、小規模店にはまずありません。厚労省の手引書は無料で、記録様式もついています。もちろん自動温度記録などの便利ツールもありますが、それは運用が回り始めてからで十分。ここは業者の営業を鵜呑みにせず、他店の事例も見ながら、身の丈に合った選択を。まず紙で始めるのが、失敗しない順番です。

判断基準:この項目は「毎日測るべきか、決めておけば済むか」

記録項目を絞るときの判断軸はシンプルです。日々変動してリスクに直結するもの——冷蔵温度・加熱温度——は毎日測って記録する。一方、清掃手順や手洗いの方法は「やり方を決めて掲示し、実施チェックだけ」で足ります。変わるものは測り、変わらないものは決める。この切り分けができると、記録は驚くほど軽くなります。

こういう店は、今すぐ「1枚のチェック表」を貼るべき

もし今、衛生管理計画をまだ作っていない、あるいは作ったけれど記録が止まっているなら、明日の開店前に、まず1枚のチェック表を厨房に貼ってください。項目は「冷蔵温度・加熱温度・手洗い・清掃」の4つで十分。厚労省や各業種団体の手引書から様式を丸ごと借りれば、作成は10分で終わります。

大切なのは、完璧を目指さないこと。まずは続けられる形で始め、慣れてから項目を足す。衛生管理は、お客様の安全を守ると同時に、万一のときに店を守る備えです。設備投資も資格も要りません(食品衛生責任者の設置は別途必要ですが)。必要なのは、今日から1枚書き始める習慣だけです。

よくある質問

Q1. 小さな個人店でもHACCP対応は本当に義務ですか?

A1. はい、2021年6月から原則すべての飲食店が対象です。ただし小規模店は簡略版「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」でよく、厚労省の手引書に沿えば1日で骨組みが作れます。規模を理由に免除されることはありません。

Q2. 何から始めればいいですか?

A2. まず自店の業種の手引書を厚労省サイトで探し、ついている計画書と記録様式をそのまま使うことです。ゼロから作らず、丸をつけて自店用に整えるだけ。最初は温度と手洗いの2項目で十分です。

Q3. 記録は毎日つけないといけませんか?

A3. 温度など日々変動する項目は営業日ごとの記録が基本です。ただし様式は「異常なしに丸」程度で構わず、慣れれば1日2分ほど。清掃手順などは毎回書かず、やり方を決めて実施チェックだけで足ります。

Q4. 加熱温度の目安を教えてください。

A4. 食材の中心温度で75℃・1分以上が基本です。ノロウイルスのリスクがある二枚貝などは85〜90℃で90秒以上が目安。中心温度計で測るのが確実で、感覚だけの判断は避けてください。

Q5. お金をかけずに対応できますか?

A5. できます。手引書は無料で、必要なのは中心温度計と記録用紙くらい。合わせて数千円で始められます。高額なシステムやコンサルは、運用が回ってから検討すれば十分で、最初から必須ではありません。

Q6. 記録をつけていないと、すぐ罰則がありますか?

A6. 未対応で即罰則、という運用は通常ありません。まず保健所の指導・改善指示が入り、従わない場合に営業停止などへ進む流れです。ただ、事故時に店を守る証拠を失うので、記録は自店のためにも続けるべきです。

Q7. 食品衛生責任者とHACCPは別のものですか?

A7. 別です。食品衛生責任者は店ごとに1名の設置が必要な「資格・人の要件」、HACCPは「日々の衛生管理の仕組み」です。両方そろって初めて基準を満たします。開業時は責任者の講習受講もあわせて確認してください。

Q8. スタッフに衛生管理を根づかせるコツは?

A8. 「なぜ書くか」を共有することです。記録は事故時に店とスタッフ自身を守る証拠だと伝えると、義務感が主体性に変わります。様式を簡単にし、掲示で見える化するのも継続に効きます。

まとめ

飲食店の衛生管理とHACCP対応は、2021年6月から全店の義務です。とはいえ小さな店がやることは、「計画を作る・毎日記録する・その通り運用する」の3つだけ。特別な設備も高額なコンサルも要らず、厚労省の手引書と温度計・記録用紙があれば始められます。核になるのは温度管理と手洗いで、冷蔵10℃以下、加熱は中心75℃・1分以上が基本ラインです。

難しく考えるほど、最初の一歩は重くなります。まずは明日、4項目のチェック表を1枚、厨房に貼ってみてください。記録は面倒に見えて、異常に早く気づける目になり、万一のときに店を守る盾になります。お客様の安全と店の信頼は、この1枚の積み重ねの先にあります。小さく、今日から始めましょう。



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